【真昼が、部屋にこぼれ出す】トレンツ・リャド『野ばら』シルクスクリーンのご紹介
ご来館ありがとうございます、やまアートミュージアム館長の山本です。
やまアートミュージアムは、私が運営するネットショップ『やまアートギャラリー』の魅力をご紹介するオンラインミュージアムです。
本日も心に残る一枚をお届けします。
本日ご紹介するのは、ホアキン・トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó/1946-1993)のシルクスクリーン『野ばら』(20号大・サイン有り)です。画面のほとんどを深い群青が占め、その中央だけが真昼の庭に抜けています。庭の光は白いしぶきとなって群青の上まで飛び散り、枠の外へこぼれ出します。本作はいま在庫がなく、当ギャラリーが専属でお探しする作品です(ご相談無料)。
この記事でわかること
- ホアキン・トレンツ・リャドがどんな画家で、なぜ肖像と風景の両方で評価されたのか
- 『野ばら』の基本情報(技法・サイズ・サイン)と、版画の限定数が工程から生まれる理由
- リャドの版画が1990年の日本初個展から始まったという成り立ち
- 白い飛沫の一粒までが版に起こされている、シルクスクリーンの手間
- 群青と黄色の関係が生む、朝と夜での見え方の変化
- この作品に合う額装3パターンと、飾ったときの空間の変化

ご来館ありがとうございます、やまアートミュージアム館長の山本です。
やまアートミュージアムは、私が運営するネットショップ『やまアートギャラリー』の魅力をご紹介するオンラインミュージアムです。
本日も心に残る一枚をお届けします。
① 本日のご紹介作品
本日ご紹介する作品は、トレンツ・リャド氏の『野ばら』という作品です。
画面のほとんどは、深い群青で塗り込められています。
その真ん中だけが、真昼の庭にすっぽりと抜けている。
そして、抜けた庭の光が、白いしぶきになって群青の上まで飛び散っているんです。
光が、枠の外までこぼれている。
そういう一枚なんですね。
正直に言うと、初めてこの絵を見たとき、私が目で追ったのは花ではなく、その飛び散った白の方でした。
庭の中でおとなしくしていない絵だな、と思ったんです。
今日この一枚の見方を知っていただけたら、絵というのは四角い窓ではなく、光をこぼす器なのだと感じていただけると思います。
そして、この作品には少し特別なご案内があります。
いまお手元にご用意できる在庫はなく、当ギャラリーが「あなたの専属」としてお探しする一枚です。
すぐのお届けはお約束できません。
けれど、先にご希望を伺っておけば、市場に現れた瞬間にまっ先にご連絡できます。
ご相談は無料です。まずは、この絵の魅力を最後までご覧ください。
② 王侯の顔も、庭の草も描いた画家
ホアキン・トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó)は、1946年にスペイン・カタルーニャ地方のバダローナに生まれた画家です。
1961年からバルセロナのサン・ホルヘ高等学校で絵を学び、在学中から多くの賞を受け、19歳で助教授に推薦されています。
1968年には地中海に浮かぶマジョルカ島にアトリエを構え、この島を拠点に描き続けました。
1970年代からはデンマークのヘンリー皇太子やベネディクト王女、スウェーデンのクリスティーナ王女などの肖像を手がけています。
スペインのカルロス国王やモナコのカロリーヌ公女の肖像も残しました。
ベラスケスの流れを汲む古典的な肖像画と、『現代の印象派』と呼ばれる光あふれる風景画。
その相反する二つを、どちらも高い完成度で描き切った画家でした。
1993年、マジョルカ島パルマで急逝しています。享年47歳でした。
王侯の顔を描いたその同じ手が、名もない庭の草むらも描いている。
その庭のひとつが、この『野ばら』です。
③ 数字で見る『野ばら』
まず、この作品の基本情報を整理します。
- 作家:ホアキン・トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó/1946-1993)
- タイトル:野ばら
- 技法:シルクスクリーン
- サイズ:20号大
- サイン:サイン有り
- 体裁:あなた専用の新品額装にてご用意します
リャドがシルクスクリーンを世に出したのは、1990年11月、日本での初個展のときでした。
つまりこの画家の版画は、日本の展覧会から始まっています。
そして版画の限定数というのは、売るために決められた数字ではありません。
作者が刷り上がりを確かめ、これでよしと認めた基準の一枚があり、そこに届かない刷りは世に出ない。
余白のサインは、その合格印です。
数が限られるのは、工程がそうさせているからなんですね。
コレクターとして正直に言えることがあるとすれば、リャドの庭の絵は、色の記憶が長く残ります。
一度見たら、他の絵を見ている最中にふと思い出してしまう。
・・・ただ、数字で語れるのはここまで。
ここからは、この画家の版画がなぜ日本から始まったのか。
その話に入っていきたいと思います。
④ 日本から始まった、リャドの版画
1990年11月、リャドの日本での初個展は『マジョルカの光と影』と題して開かれました。
72点の風景画と7点の肖像画からなるコレクションで、あわせて、リャド自身にとって初の試みだった新作シルクスクリーンが発表されています。
つまり日本の観客は、この画家の版画の一枚目に立ち会った客だったわけです。
以来、リャドの庭や花の版画は日本の家の壁に長く掛かり続けてきました。
この『野ばら』も、その系譜に連なる一枚です。
飾ってからの話を少しだけしておくと、この絵は夜に強い一枚です。
部屋の灯りを落としていくと、群青が壁と溶けて輪郭を失い、中央の庭だけが宙に残ります。
眠る前に電気を消しに行くたび、庭がひとつ浮かんでいる。
そういう働きをしてくれます。
⑤ しぶきの一粒まで、版になっている
さらに面白いのは、この絵の白い飛沫が、偶然の汚れではないところなんです。
シルクスクリーンは、版に細かい孔を開け、色ごとにインクを押し出して一色ずつ刷り重ねていく技法です。
網の目を通ったインクは紙に染み込まず、画面の上に層として積み上がります。
・・・これがどのくらい手間か?というと、飛び散った白の一粒一粒も、版に起こして刷り分けているということなんですね。
原画の筆が跳ねた場所を写し取り、その形の孔を版に開ける。
飛沫は描き足せません。版の側に、先に用意しておくものです。
群青の面も同じです。
一見すると平らに塗った青ですが、近くで見ると刷毛の走った跡が縦に何本も残っています。
その筋のむらまで層として乗っているので、光の角度を変えると、青の表面が場所ごとに違う光り方をします。
近くで見ると、色が塗られているというより、置かれているのが分かります。
⑥ 群青が沈み、白が起きる
ここからは、色の話をさせてください。
この群青は、青の中でもわずかに紫へ寄った色です。
色の輪の上でちょうど向かい合うのは、黄色になります。
中央の庭にこぼれる木漏れ日の黄が、あれほど強く光って見えるのは、周りの群青が押し返しているからなんですね。
朝の光の下では、群青がまだ軽く、画面全体が水を張ったように涼しく見えます。
夕方、照明を落としていくと、今度は群青だけが先に沈む。
すると白い花と白い飛沫が、暗がりの中から起き上がってきます。
一日の中で、絵の重心が奥から手前へ動くんです。
そして、この白い飛沫には音があります。
水面をはじいたときの、あの高い音です。
群青の広い面に目を置くと部屋が静まり、飛沫に目を移した瞬間に、その音がぱらぱらと戻ってくる。
色を見ているのに、耳の方が先に反応する。そんな瞬間のある絵です。
薄紅を帯びた野ばらの花は、その音の中で唯一やわらかい部分です。
強い色に囲まれているのに、花だけが体温を持っている。そう感じられます。
⑦ 「本物の画家だ」と詩人は書いた
リャドの評価を、当時の言葉で一つだけ紹介させてください。
スペインのデーヤに住み、リャドと親交のあったイギリス生まれの詩人ロバート・グレイヴズは、リャドの作品カタログにこう書き残しています。
「ホアキン・トレンツは画家だ。多くの画家は自分が画家だと思っているだけだが、ホアキン・トレンツは本物の画家だ」(出典:リャド大回顧展 公式サイト)。
1988年には、パリのジャーナリスト協会が選ぶ『パーソナリティ・オブ・ザ・イヤー』に選出されています。
スペイン人としては、ミロ、ダリに続く史上3人目の受賞でした。
1991年にはスペイン『セビリアフェスタ』の公式ポスターを手がけました。
1992年にはオランダ『フロリアード1992』の日本公式ポスター記念版画も制作しています。
公の場の絵を任され続けた画家でした。
⑧ この絵には、どんな額が合う?
ここからは、この作品にどんな額装が合うのか、私のおすすめを3パターンご紹介させていただきます。
昼をのばす『オフホワイト額装』
まずご家族の集まるリビングに掛けるなら、暖かみのあるオフホワイトの額装です。
この絵はすでに画面の中に群青という強い縁を持っています。
そこへ濃い額を足すと、縁が二重になって、中央の庭がさらに奥へ引っ込んでしまう。
オフホワイトは壁の側に立って、絵の中の群青との間に一枚、明るい余白を差し込んでくれます。
朝の光の下では、その余白が中央の真昼と呼び合って、壁の一角だけ時間が早く進んでいるように見えます。
夜、照明を落とすと、今度は白い額縁が最後まで残って、群青が沈んでいく様子を静かに見届ける形になります。
お子さんが「この白いつぶつぶは何?」と聞いてくる。
絵の具が飛んだんだよ、と答えると、じゃあ自分もやってみたいと言い出す。
そういう会話が生まれる一枚です。

夜を深める『ネイビー額装』
青い絵になぜ青い額を、と思われるかもしれませんが、これがこの作品でいちばん中央が明るく見える組み合わせです。
黒に近い紺の額を回すと、絵の群青が額の紺へそのまま続いて、外側の暗さが厚みを増します。
暗い部分が広がるぶん、真ん中の真昼が実際より強く光る。
書斎や応接室など、壁の色が落ち着いた部屋に向きます。
昼はオフホワイトのマットだけが細く光り、絵と額がひとつの塊に見えます。
夜、間接照明を当てると、紺と群青の境目が完全に消えて、庭だけが空中に残ります。
実を言うと私自身、自分の書斎には少し暗めの額を選ぶことが多いんです。
仕事の手を止めて顔を上げたとき、絵の方が明るいと、そちらへ気持ちが逃げてくれる。
来客に「これ、夜になると明るくなりますね」と言われたことがあります。
額が暗いと、絵はそういう見られ方をします。

光を留める『アンティークゴールド額装』
3案目は、カフェやサロンなど、人が長く座る商業空間への提案です。
燻んだ古典金の額は、中央の庭に差している木漏れ日と同じ側の色です。
群青を挟んで、額の金と庭の黄がゆるやかに呼び合い、絵の中の光が画面の外まで続いているように見えます。
昼の自然光では、金がぎらつかず、木のテーブルや真鍮の照明となじんで店の内装に溶けます。
夜、灯りを落とした店内では、額の縁だけが低い光を拾って、群青の四角を静かに囲みます。
閉店前の時間に、この絵の中だけがまだ昼のまま起きている。
そんな見え方をします。
お客様が席を立つ前にふと足を止めて、写真を撮っていく。
会話のきっかけを、店主に代わって作ってくれる一枚です。

⑨ まとめ
群青の真ん中に、真昼がひとつ抜けている。
そしてその真昼は、四角い枠の中にじっとしていません。
白いしぶきになって、暗い青の上までこぼれ出しています。
光は、枠の外までこぼれている。
この絵は、飾った部屋の壁でも同じことをしてくれます。
朝の涼しい青、夕方に沈む青、灯りを落とした夜に残る庭。
そのたびに絵の重心が奥から手前へ動くのは、買った人だけが知る顔です。
そして、この『野ばら』は、いまはどこかで、次の持ち主を静かに待っている一枚です。
名品は、ある日ふいに、たいてい一度きり市場に現れます。
そのとき「どなたが探しているか」を私が知らなければ、目の前を通り過ぎるのを見送るしかありません。
先にご希望を伺っておくことで初めて、現れた瞬間に確保してご連絡できます。
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