【水面から朝を迎える】トレンツ・リャド『湖の夜明け』シルクスクリーンのご紹介

ご来館ありがとうございます、やまアートミュージアム館長の山本です。

やまアートミュージアムは、私が運営するネットショップ『やまアートギャラリー』の魅力をご紹介するオンラインミュージアムです。

本日も心に残る一枚をお届けします。

トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó)の『湖の夜明け』は、約70cm角・正方形のシルクスクリーン作品です。画面の下半分は藍に沈んだままで、その暗い水面に散った白い光の粒だけが朝を写しています。空が明るくなったから朝なのではなく、水が光を拾ったから朝になっている。面積でいえば一番小さな粒が、この一枚の時刻を決めています。本作は在庫ではなく、ご希望を伺ってからお探しする『専属お探し』作品として承っています。

この記事でわかること

  • トレンツ・リャド『湖の夜明け』の基本情報(シルクスクリーン・約70cm角・サイン有り)と、記録に差のある部数・サイン種別の正直な開示
  • ミロ、ダリに続く3人目としてパリで「パーソナリティ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた画家の歩み
  • この版が記録されているのは、画家が世を去った翌年の1994年だという事実
  • 暗い水面の白い粒が「最後に乗る一色」として置かれている、という技法の読み方
  • 夜明けなのに橙色を使わない色彩設計と、朝・夜での見え方の変化
  • この作品に合う額装3パターンと、飾ったときの空間イメージ
  • 『専属お探し』の仕組み(無料リクエスト・無保証でお探しします)

トレンツ・リャド『湖の夜明け』シルクスクリーンの全体像

本日のご紹介作品

本日ご紹介する作品は、トレンツ・リャド氏の『湖の夜明け』という作品です。

この絵の下半分は、まだ夜のままです。深い藍に沈んだ水面、黒に近い下草、光の届いていない幹の根元。

けれどその暗い水の上に、白い光の粒がいくつも散っています。

上の梢が受けた朝を、水が先に写しとっているんです。

『水がさきに目を覚ます』。空が明るくなったから朝なのではなく、水が光を拾ったから朝になっている、と感じています。

正直に言うと、初めてこの絵を見たとき、私は上半分ばかり見ていました。

下の暗がりに目を移して、ようやく「これは夜明けだ」と分かったんです。

今日この作品を知っていただけたら、絵の中の時刻は空ではなく水で決まることがある、という見方が一つ増えるかもしれません。

なお、この作品はいま手元にある在庫ではなく、やまアートギャラリーで『専属お探し』として承っている一枚です。すぐのご用意はできませんが、ご希望を伺えれば、あなたの専属としてお探しします。

光を集めるほうの仕事を選んだ画家

トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó/1946-1993)は、スペイン・カタルーニャ地方のバダローナに生まれた画家です。

バルセロナのサン・ホルヘ高等学校で絵画を学び、在学中から賞を重ねました。課程の修了を待たず、19歳で同校の助教授に指名されています。(出典:おいだ美術 作家年譜/北海道画廊 作家略歴)

1968年、マヨルカ島にアトリエを構えます。以後この島の光が、生涯の主題になりました。

1988年にはパリのジャーナリスト協会が選ぶ「パーソナリティ・オブ・ザ・イヤー」に選出されます。この栄誉を受けたスペイン人の芸術家としては、ミロ、ダリに続く3人目でした。(出典:おいだ美術 作家年譜/北海道画廊 作家略歴)

王侯貴族の肖像を任される画家が、同時に、人のいない水辺の夜明けを描いている。

呼び名も二つ残っていて、肖像には「ベラスケスの再来」、風景には「光の収集家」と呼ばれました。(出典:株式会社シバヤマ 作家解説/ガレリア・プロバ『J.トレンツ・リャド作品集』紹介文)

この一枚は、後者の名前で描かれた作品です。

数字と事実で見る『湖の夜明け』

まず、この作品の基本情報を整理しておきます。

  • 作家:トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó)
  • タイトル:湖の夜明け
  • 技法:シルクスクリーン
  • 画寸:約70cm × 約70cmの正方形
  • 体裁:あなた専用の新品額装にてご提供

そのうえで、正直にお伝えしておきたいことがあります。

本作の流通記録では、制作年は1994年、エディションは限定300部、サインは遺族サイン(ピノ夫人)とされています。版元であるガレリア・プロバのエンボスが入り、画寸は70.5cm角と記録されています。(出典:北海道画廊 作品データ/b-artspace 作品データ)

一方で、部数を500部と記す資料もあります。同じ題で版が複数記録される作品はめずらしくありません。

ですから当店では部数もサインの種別も断定せず、お探しした個体の実物を確認したうえで、確保した時点で必ずお伝えしています。

コレクターとして正直に言えることがあるとすれば、この手の版は、分からないことを分からないまま先に開いてくれる相手から迎えるのが、いちばん気持ちがいいんですよね。

・・・ただ、数字で語れるのはここまで。

画家がいなくなった翌年に、この版は刷られた

リャドが世を去ったのは1993年です。享年47歳、スペインでは国葬になりました。(出典:北海道画廊 作家略歴/おいだ美術 作家年譜)

本作の版が記録されているのは、その翌年の1994年です。(出典:北海道画廊 作品データ)

サインは本人の手ではなく、遺族であるピノ夫人のものと記録されています。(出典:北海道画廊 作品データ/b-artspace 作品データ)

つまりこの『湖の夜明け』は、画家がもういない年に、残された人たちの手で壁へ送り出された一枚です。

そのことを知ってから、私はこの絵の題を長く見てしまうようになりました。

夜明けです。暮れていく時間ではなく、これから明るくなっていく時間が選ばれています。

もちろん、その題が誰の意図で決まったのかを私は知りません。

ただ、いなくなった人の版に付いた名前が「夜明け」だったという事実だけは、動かないと思っています。

飾ってみると、この事実が毎朝ふいに効いてきます。

カーテンを開ける前、部屋がまだ暗いうちに、壁のその一角だけが先に水の光を持っている。

家の中で、いちばん早く朝が来る場所ができたような感覚になります。

白い粒は、最後に置かれている

この絵でいちばん働いている場所は、面積でいえば一番小さいところです。

画面の下、暗い水面に散った白い光の粒。あれが無ければ、この絵はただの夜になります。

さらにすごいのは、その粒が「描き足した点」ではなく、版の順番の結果として置かれているところなんです。

どういうことか?というと、シルクスクリーンは色を一色ずつ積んでいく技法だからです。

細かな網目を張った版の、開けておいた部分にだけインクを押し通す。型紙を当ててスプレーを吹く工程を思い浮かべていただくと、原理は近いです。

暗い藍を先に敷き、その上へ明るい色を重ねていく。つまり水面の白は、いちばん濃い色の上に、いちばん最後に乗る一色です。

ここで版が少しでもずれると、光は水から外れて、ただの白い汚れになります。

木々の葉の重なりなら、多少のずれは形に紛れてくれます。けれど暗い水の上に散った一粒は、逃げ場がありません。

しかもリャドは、絵の具を叩きつけて飛沫を散らす「スプラッシング」を確立した画家です。(出典:北海道画廊 作家解説)

筆でなぞった線ではなく、飛んだ形をそのまま版に起こしている。

規則正しく並んでいない粒を、ずれずに置ききる。そこまで揃って初めて、水面が「光を拾った水」になります。

実は私、自宅に初めて絵を迎えたとき、届いた箱を開けてから1時間近く、ずっと見ていました。

遠目には一色に見えていた場所が、近づくと何色も重なって計算されていたからです。

美術館や展示会では、そこまで近づけません。この絵でいえば、水面の粒に鼻先まで寄れるのが、迎えた人の特権だと思っています。

夜明けなのに、色が冷たい

この絵の夜明けには、橙色がほとんど使われていません。

上の梢で光っているのは、白と、黄を含んだ明るい緑です。そして影の側は、黒ではなく藍と深い緑で置かれています。

夜明けを暖色で描かない。だからこの絵の朝は、暖かい朝ではなく、空気が一段冷える朝になります。

窓を開けた瞬間、肺の中まで冷たい水の匂いが入ってくる。あの感じが、色だけで作られています。

朝の自然光の中で見ると、梢の白がいっそう軽くなって、緑が起き出してきます。画面全体が涼しくなり、水面の粒は少し引っ込みます。

夜、照明を落とすと、今度は藍が黒へ近づいて、水の粒だけが残ります。部屋が暗くなるほど、絵の中の朝が近づいてくる。

同じ一枚が、昼は森の中、夜は湖のほとりに変わります。

色を意味で読まず、明るい順に目で追ってみてください。いちばん明るいのは上の梢で、二番目が水面の粒です。

そのあいだにある広い暗がりが、二つの光を離れさせている。

この絵は、光そのものではなく、光と光の距離を描いた作品だと見ています。

モネへの返事として置かれた水辺

リャドは、モネを深く敬愛していた画家です。睡蓮や水辺の庭を、生涯くり返し描きました。(出典:絵画買取 獏 作家コラム)

水を描くというのは、水そのものを描くことではありません。水に映った別のものを描くことです。

だから水辺を選ぶ画家は、対象ではなく反射を追うことになります。

「光の収集家」という呼び名は、そういう仕事の仕方に付いた名前なのだと思っています。

もうひとつ、この画家の版画について知っておいていただきたい事実があります。

リャドが初めてシルクスクリーンを発表したのは、1990年11月、日本で開かれた初の個展でした。(出典:おいだ美術 作家年譜/北海道画廊 作家略歴)

版元は日本のガレリア・プロバで、その社名のエンボスが本作にも押されています。(出典:北海道画廊 作品データ)

この画家の版画は、日本の壁のために始まった仕事なんです。

原画は世界に一枚きりで、たいてい美術館か誰かの家にあります。けれど版があるから、この夜明けは300の壁へ分かれて届きました。

版画は複製ではなく、届く数を作者側が決められる、もうひとつの完成形だと私は考えています。

この絵にはどんな額が合う?

ここからは、この作品にどんな額装が合うのか、私のおすすめを3パターンご紹介させていただきます。(お探しした一枚をお迎えいただいた『その先』を想像する手がかりとして、ご覧ください。)

夜明けの空気を借りる『ライトグレー額装』

まず王道は、明るい灰の『ライトグレー額装』です。

この絵の左の縁には、もともと薄い青灰の帯が置かれています。夜明け前の空気そのものの色ですから、額にもその色を延長してあげると、画面の外まで同じ時間が続いていきます。

純白で締めないのは、白だと梢の光と競って、いちばん明るい場所が二つになってしまうからです。灰で受けると、明るさの順番が画面の中に残ります。

リビングの、家族が朝いちばんに通る壁におすすめです。

朝は自然光を吸って画面ごと軽くなり、夜は照明を落とすほどに、水面の粒だけが静かに残ります。

実は私、自宅用に初めて絵を買ったのは妻と一緒でした。届く前から、どこに飾るかの話が止まらなかったんです。

飾ってから変わったのは、朝でした。好きなものが目線の先にいつもあると、朝のコーヒーが3倍おいしくなる。

夜明けを描いた絵を朝の動線に置くというのは、その時間を一段持ち上げる選択だと思っています。

「今朝、外もこんな色だったね」

季節が変わるたび、家族がそんな話を始めます。壁の一角が、朝の色見本になります。

『ライトグレー額装』×リビング設置イメージ

残った夜を引き受ける『インディゴ額装』

変化球のひとつめは、深い藍の『インディゴ額装』です。

夜明けの絵に夜の色の額?と思われるかもしれませんが、この作品の面積の半分は、まだ夜のままです。

つまり藍は、外から持ち込む色ではなく、作者がすでに敷いている色なんです。

額縁にその藍を延長すると、画面の下半分と壁との境目がほどけて、水面が奥へ広がって見えてきます。

書斎や、一枚だけを掛ける応接の壁におすすめです。

昼は藍が締まって画面が引き締まり、夜は照明を落とすほどに、額が闇へ溶けて、光の粒だけが宙に浮きます。

夕食が長引いた夜に、明かりを一段落とす。

「あそこだけ、まだ光ってません?」

お客様が絵の話を始めるのは、たいてい夜の後半です。

『インディゴ額装』×書斎・応接設置イメージ

緑を静かに立たせる『セージグリーン額装』

もうひとつは、くすんだ葉の色の『セージグリーン額装』です。

この絵の緑は、梢の黄緑から水際の深緑まで、ずいぶん幅があります。

額にいちばん彩度の低い緑を置くと、基準の低い側が外側へ移って、画面の中の緑が一段明るく見えます。

カフェの、窓から少し離れた席の壁などにおすすめです。

昼は観葉植物と自然に並び、夜は緑が壁へ沈んで、水面の粒だけが浮かび上がります。

「この絵、夜のほうが朝っぽく見えますね」

そんな話をお客様どうしが始める席が、一つ増えます。

『セージグリーン額装』×カフェ設置イメージ

まとめ

空が明るくなったから朝なのではなく、水が光を拾ったから朝になっている。面積でいえば一番小さい白い粒が、この一枚の時刻を決めています。

『水がさきに目を覚ます』。それが、この絵が抱えているものだと考えています。

そして絵そのものにも、暮らしてみないと見えてこない顔があります。

昼は森の中に見え、夜は湖のほとりに変わる。

それは、買った人だけが知る顔です。

この『湖の夜明け』は、いま手元にある一枚ではありません。

名品は、ある日ふいに、たいてい一度きり市場に現れます。そのときに「どなたが探しているか」を私が知らなければ、せっかく現れた一枚も見送るしかありません。

先にご希望を伺っておけたときに初めて、「あの方のための一枚だ」と気づいて確保し、ご連絡できます。

数ヶ月かかることも、もっと先になることもあります。見つからないこともあります。

「この絵を探してほしい」

そのひと声を、どうぞお気軽にお聞かせください。ご相談は無料です。しつこい営業はいたしません。

この作品の専属お探しのご相談はこちらから

やまアートギャラリーで見る

作品のご不明点や額装のご相談は、お気軽にお問い合わせください。

よくあるご質問

この作品はすぐに購入できますか?

いいえ。本作は在庫ではなく『専属お探し』作品です。ご希望を伺ってからお探しし、見つかり次第、状態と価格をご連絡します。数ヶ月以上かかる場合や、見つからない場合もあります。ご相談・お見積もりまでは無料です。

エディションは何部で、サインは作家の直筆ですか?

記録に差があるため断定せず、確保した個体の実物を確認したうえでお伝えしています。流通記録では1994年制作・限定300部・遺族サイン(ピノ夫人)とされ、版元ガレリア・プロバのエンボスが入るとされています。一方で部数を500部と記す資料もあります。リャドが世を去ったのは1993年で、本作の版はその翌年にあたります。

『湖の夜明け』はどんな画題ですか?

夜明けの澄んだ光が、樹間と湖面に映る風景です。画寸は約70cm角の正方形で、上の梢が白と黄緑に光り、画面の下半分は藍に沈んでいます。暗い水面に散った白い光の粒が、この絵を「夜」ではなく「夜明け」にしています。

額装は変更できますか?

はい。お迎えの際はあなた専用の新品額装でご用意し、額装のご相談も承っております。本記事では、この作品に合う3パターンをご提案しています。

送料はかかりますか?

お探しした個体を確保した際に、価格とあわせて送料を含むお届け条件をご案内します。ご相談・調査の段階では費用は一切かかりません。