【壁まで光がこぼれる】トレンツ・リャド『花のトンネル』シルクスクリーンのご紹介
ご来館ありがとうございます、やまアートミュージアム館長の山本です。
やまアートミュージアムは、私が運営するネットショップ『やまアートギャラリー』の魅力をご紹介するオンラインミュージアムです。
本日も心に残る一枚をお届けします。
トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó)の『花のトンネル』は、約71cm角・正方形のシルクスクリーン作品です。画面のほとんどは濃い青一色で、そのまんなかに細い線で四角が描かれ、内側だけが昼になっています。黄緑の花のアーチと、奥へのびる小道。青は壁で、四角はそこに開いた通り道です。ただし光はその内側で止まらず、黄と白の粒が線を越えて青の上まで飛び散っています。本作は在庫ではなく、ご希望を伺ってからお探しする『専属お探し』作品として承っています。
この記事でわかること
- トレンツ・リャド『花のトンネル』の基本情報(シルクスクリーン・約71cm角・サイン有り)と、部数・制作年を断定しない正直な開示
- ミロ、ダリに続く3人目としてパリで「パーソナリティ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた画家の歩み
- 画面の内側にもう一本の四角い線が引かれた、この作品だけの構図の読み方
- 青の外へ飛んだ光の粒が、版の順番では「最後に乗る一色」になるという技法の話
- いちばん暗い青といちばん明るい黄緑が直接となり合う色彩設計と、朝・夜での見え方の変化
- この作品に合う額装3パターンと、飾ったときの空間イメージ
- 『専属お探し』の仕組み(無料リクエスト・無保証でお探しします)

① 本日のご紹介作品
本日ご紹介する作品は、トレンツ・リャド氏の『花のトンネル』という作品です。
画面のほとんどは、濃い青一色です。
その青のまんなかに、細い線で四角がひとつ描かれていて、その内側だけが昼になっています。
黄緑に光る花のアーチ、赤い花、両脇の白い花、そして奥へ細くのびていく小道。
青は壁で、四角は、そこに開いた通り道です。
ところが、よく見ると光は内側で止まっていません。
黄色や白の粒が、線を越えて青の上まで飛び散っています。
『光は、枠の内側で止まらない』。この一枚が抱えているのは、そういう出来事だと感じています。
正直に言うと、初めてこの絵を見たとき、私は四角の内側だけを見ていました。
外側の青に散った粒に気づいてから、絵の見え方がまるごと変わったんです。
今日この作品を知っていただけたら、絵は枠の中で完結しているとは限らない、という見方が一つ増えるかもしれません。
なお、この作品はいま手元にある在庫ではなく、やまアートギャラリーで『専属お探し』として承っている一枚です。
すぐのご用意はできませんが、ご希望を伺えれば、あなたの専属としてお探しします。
② 四角の外へ色をこぼした画家
トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó/1946-1993)は、スペイン・カタルーニャ地方のバダローナに生まれた画家です。
バルセロナのサン・ホルヘ高等学校で絵画を学び、在学中から多くの賞を受けました。
課程を終える前、19歳で同校の助教授に指名されています。(出典:北海道画廊 作家年譜/額縁・絵画販売Masuzawa 作家略歴)
1968年、マヨルカ島にアトリエを構えます。
以後この島の光が、生涯の主題になりました。
1988年には、パリのジャーナリスト協会が贈る「パーソナリティ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれます。
この栄誉を受けたスペイン人のアーティストとしては、ミロ、ダリに続く史上3人目でした。(出典:北海道画廊 作家年譜/額縁・絵画販売Masuzawa 作家略歴)
王侯貴族の肖像を任される腕を持ちながら、同時に、人のいない庭の小道を描いている。
呼び名も二つ残っていて、肖像には「ベラスケスの再来」、風景には「光の収集家」と呼ばれました。(出典:株式会社シバヤマ 作家解説/ガレリア・プロバ『J.トレンツ・リャド作品集』紹介文)
そして、その作品集の紹介文には、こう書かれています。
「キャンバスの中で光は飛び散り、滴り、縦の光と横の風となって、四角いフレームから色彩がこぼれ出る。」(出典:山下仁美〔ガレリア・プロバ〕『J.トレンツ・リャド作品集』紹介文)
本日の一枚は、その一文がそのまま絵になったような作品です。
③ 記録で見る『花のトンネル』
まず、この作品の基本情報を整理しておきます。
- 作家:トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó)
- タイトル:花のトンネル
- 技法:シルクスクリーン
- 画寸:約71cm × 約71cmの正方形(当店表記は20号大)
- サイン:サイン有り
- 体裁:あなた専用の新品額装にてご提供
そのうえで、正直にお伝えしておきたいことがあります。
本作の流通記録では、画寸は71cm角、サインは遺族サイン(ピノ夫人)とされています。(出典:株式会社シバヤマ 作品データ/ART GALLERY TOKYO 作品データ)
一方で、限定部数と制作年を公表している記録は、私が確認できた範囲では見当たりませんでした。
ある販売記録には、エディション表記として「CCXXV」というローマ数字だけが残っています。(出典:ART GALLERY TOKYO 作品データ)
ですから当店では、部数も制作年もサインの種別も断定しません。
お探しした個体の実物を確認したうえで、確保した時点で必ずお伝えしています。
コレクターとして正直に言えることがあるとすれば、この手の版は、分からないことを分からないまま先に開いてくれる相手から迎えるのが、いちばん気持ちがいいんですよね。
・・・ただ、数字で語れるのはここまで。
④ 絵の中に、もう一枚の額がある
この絵でいちばん変わっているのは、構図そのものです。
ふつう、絵は四角い紙や布の端まで描かれます。
ところがこの一枚では、画面の端ではなく、画面の内側に、もう一本の四角い線が引かれています。
その線の内側だけに花のトンネルがあり、外側は濃い青のまま残されている。
つまり作者は、絵の中に額をもう一枚描き込んだことになります。
しかも、その内側の額は完全には閉じていません。
線は途切れがちで、右の辺のあたりでは青とほとんど溶け合っています。
そして光の粒は、その途切れたあたりからいちばん多く外へ出ています。
私はここに、この画家の仕事の仕方がそのまま出ていると見ています。
「四角いフレームから色彩がこぼれ出る」という、さきほどの一文です。(出典:山下仁美〔ガレリア・プロバ〕『J.トレンツ・リャド作品集』紹介文)
枠を描いておいて、その枠を守らない。
守らないために、わざわざ枠を描いている。
飾ってみると、この構造が毎日効いてきます。
壁に掛けた瞬間、部屋の中に「額の中の額」ができます。
近づくと花の小道が見え、離れると、青い壁に光がこぼれた一角だけが見えます。
同じ一枚で、立つ位置によって見えているものが入れ替わるんです。
⑤ 青を敷いてから、光を通す
この絵の仕掛けは、色を置いた順番にあります。
シルクスクリーンは、色を一色ずつ積んでいく技法です。
細かな網目を張った版の、開けておいた部分にだけインクを押し通す。
型紙を当ててスプレーを吹く工程を思い浮かべていただくと、原理は近いです。
濃い青を先に敷き、その上へ明るい色を重ねていく。
つまり黄緑の花も、白い花も、青の外へ飛んだ粒も、暗い色の上に後から乗る一色になります。
ここで版が少しでもずれると、どうなるか。
花のアーチの中なら、多少のずれは葉の重なりに紛れてくれます。
けれど青一色の上に飛んだ一粒には、紛れる場所がありません。
ずれた粒は、光ではなく汚れとして見えます。
さらに難しいのは、その粒が規則的に並んでいないことです。
リャドは、絵の具を叩きつけて飛沫を散らす「スプラッシング」を確立した画家です。(出典:北海道画廊 作家解説)
筆でなぞった線ではなく、飛んだ形をそのまま版に起こしている。
バラバラに散った形を、バラバラのままずれずに置ききる。
そこまで揃って初めて、青の上の粒が「こぼれた光」として成立します。
実は私、自宅に初めて絵を迎えたとき、届いた箱を開けてから1時間近く、ずっと見ていました。
遠目には一色に見えていた場所が、近づくと何色も重なって計算されていたからです。
美術館や展示会では、そこまで近づけません。
この絵でいえば、青の上の一粒に鼻先まで寄れるのが、迎えた人の特権だと思っています。
⑥ 隣り合ってはいけない明るさが、隣にある
この絵の色づかいは、ふつうの風景画とは逆をやっています。
いちばん暗い青と、いちばん明るい黄緑が、間の色をほとんど挟まずに接しているんです。
作品集の紹介文には「躊躇することなく明度に隔たりある色を隣り合わせる」とあります。(出典:山下仁美〔ガレリア・プロバ〕『J.トレンツ・リャド作品集』紹介文)
この一枚は、その手つきがもっとも極端に出た例だと見ています。
だから目が、青と黄緑のあいだを何度も往復します。
眺めているうちに、遠近ではなく明るさの段差を歩いているような感覚になります。
朝の自然光の中で見ると、青が少し軽くなって、外に飛んだ粒が増えたように見えます。
壁全体が涼しくなり、小道の白が伸びてきます。
夜、照明を落とすと、今度は青が奥へ沈んで、黄緑のアーチだけが前に出ます。
部屋が暗いほど、四角の内側の昼が濃くなる。
同じ一枚が、昼は青い壁に開いた窓になり、夜は闇に浮かぶ灯りに変わります。
そして、この青には音がありません。
赤い花も白い花も、あの静かな青に受け止められていて、画面のどこからも音がしないんです。
窓を閉め切った部屋で、外の庭だけを見ているときの静けさに似ています。
色を意味で読まず、明るい順に目で追ってみてください。
いちばん明るいのは四角の内側の黄緑で、二番目が、線を越えて外へ出た粒です。
その二つのあいだに、広い青が横たわっている。
この絵は花の絵ではなく、光がどこまで行けるかを測った絵だと見ています。
⑦ 日本の壁のために始まった版画
この画家の版画について、知っておいていただきたい事実があります。
リャドが初めてシルクスクリーンを発表したのは、1990年11月、日本で開かれた初の個展でした。(出典:北海道画廊 作家年譜/額縁・絵画販売Masuzawa 作家略歴)
版元は日本のガレリア・プロバで、同社のエンボスが押された作品が多く記録されています。(出典:北海道画廊 作品データ)
1992年にはオランダの国際園芸博覧会「フロリアード1992」の日本公式ポスターと記念版画も手がけました。(出典:北海道画廊 作家年譜)
逝去は1993年、スペインでは国葬になっています。
その2年後の1995年、淡路島・洲本市のミュージアムパーク・アルファビア内にリャド美術館が開館しました。(出典:北海道画廊 作家年譜)
つまりこの画家の版画は、日本の壁のために始まった仕事なんです。
原画は世界に一枚きりで、たいてい美術館か、どこかの誰かの家にあります。
けれど版があるから、この花のトンネルは複数の壁へ分かれて届きました。
版画は原画の代用品ではありません。
作者が納得した一枚を基準として承認し、その基準に届かない刷りは世に出ない。
余白のサインとエディションナンバーは、飾りではなく作者側の合格印です。
限定数から生まれる希少性は、売るための演出ではなく、工程そのものから出てきたものだと考えています。
版画は複製ではなく、届く数を作者の側が決められる、もうひとつの完成形なんです。
⑧ この絵にはどんな額が合う?
ここからは、この作品にどんな額装が合うのか、私のおすすめを3パターンご紹介させていただきます。(お探しした一枚をお迎えいただいた『その先』を想像する手がかりとして、ご覧ください。)
こぼれた光を受け止める『オフホワイト額装』
まず王道は、わずかに温かみのある白、『オフホワイト額装』です。
この絵はすでに自前の枠を持っていますから、外側の額の仕事は「もう一本の線を足すこと」ではありません。
青の外へ出た光が、最後に着地する場所をつくることです。
純白ではなく、少し温度のある白を選ぶのは、白が強すぎると花の白と競って、画面の中の白が沈んでしまうからです。
オフホワイトで受けると、青の外の粒がいちばん明るい場所として残ります。
リビングの、家族が毎日いちばん長く座る側の壁におすすめです。
朝は自然光を吸って額ごと軽くなり、夜は照明を落とすほどに、四角の内側の昼が濃く残ります。
実は私、自宅用に初めて絵を買ったのは妻と一緒でした。
届く前から、どこに飾るかの話が止まらなかったんです。
飾ってから変わったのは、朝でした。
好きなものが目線の先にいつもあると、朝のコーヒーが3倍おいしくなる。
青い壁に開いた小道を、家を出る前に毎朝ひと目見る。
それだけで、その日の出だしが少し変わります。
「今日はあの奥のほう、よく見えるね」
天気が変わるたび、家族がそんな話を始めます。
壁の一角が、その日の光の目盛りになります。

青を壁まで延ばす『ロイヤルブルー額装』
変化球のひとつめは、冴えた青の『ロイヤルブルー額装』です。
青い絵に青い額?と思われるかもしれませんが、この作品の面積の大半は、もともと青です。
つまり青は外から持ち込む色ではなく、作者がすでに敷いている地の色なんです。
額にその青を延長すると、画面の端と壁との境目がほどけて、青の面が実際よりも広く見えてきます。
面が広がるほど、内側の四角は小さく、遠くなります。
書斎や、一枚だけを掛ける応接の壁におすすめです。
昼は青が締まって小道の奥行きが伸び、夜は額が闇へ溶けて、花のアーチだけが宙に浮かびます。
夕食が長引いた夜に、明かりを一段落とす。
「あそこ、奥に道が続いてません?」
お客様が絵の話を始めるのは、たいてい夜の後半です。

飛んだ粒を拾う『アンティークゴールド額装』
もうひとつは、艶を抑えた金の『アンティークゴールド額装』です。
この絵で青の外へ飛んでいるのは、白と、黄をふくんだ光の粒です。
くすんだ金をまわりに置くと、その粒と額が同じ明るさの家族になって、こぼれた光が画面の外まで続いて見えます。
ぴかぴかの金を選ばないのは、新しい金だと額のほうが光り、粒が負けてしまうからです。
カフェの、窓から少し離れた席の壁などにおすすめです。
昼は木の家具や真鍮の照明と自然に並び、夜は金がランプの色を拾って、絵のまわりだけ空気が濃くなります。
「この絵、外側にも何か散ってますよね」
そう言ってお客様が席を立ち、近くまで見にいく。
そんな時間が一つ増えます。

⑨ まとめ
青は壁で、そのまんなかに、細い線で通り道がひとつ描かれている。
けれど光は、その線を越えて外まで出ています。
『光は、枠の内側で止まらない』。それが、この一枚が抱えているものだと考えています。
そして絵そのものにも、暮らしてみないと見えてこない顔があります。
近づくと花の小道になり、離れると、青い壁にこぼれた光の一角になる。
それは、買った人だけが知る顔です。
この『花のトンネル』は、いま手元にある一枚ではありません。
名品は、ある日ふいに、たいてい一度きり市場に現れます。
そのときに「どなたが探しているか」を私が知らなければ、せっかく現れた一枚も見送るしかありません。
先にご希望を伺っておけたときに初めて、「あの方のための一枚だ」と気づいて確保し、ご連絡できます。
数ヶ月かかることも、もっと先になることもあります。見つからないこともあります。
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エディションは何部で、サインは作家の直筆ですか?
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『花のトンネル』はどんな画題ですか?
濃い青の画面のまんなかに細い線で四角が描かれ、その内側にだけ花のトンネルが開いている構図です。画寸は約71cm角の正方形で、黄緑に光るアーチの上に赤い花がともり、両脇を白い花が飾り、奥へ小道がのびています。青の地には黄色や白の飛沫が星のように散っています。
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