【金の糸が朝を起こす】トレンツ・リャド『ロルカの詩I』シルクスクリーンのご紹介
ご来館ありがとうございます、やまアートミュージアム館長の山本です。
やまアートミュージアムは、私が運営するネットショップ『やまアートギャラリー』の魅力をご紹介するオンラインミュージアムです。
本日も心に残る一枚をお届けします。
本日ご紹介するのは、トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó/1946-1993)のシルクスクリーン『ロルカの詩I』(限定75部・サイン有り・画寸 縦63cm×横63cm)です。深い緑の画面に、詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカの詩「アンパロ」が金色の手書き文字で書き写され、中央には、グラナダのヘネラリフェ庭園へ開く小さな窓がひとつあります。本作はいま在庫がなく、当ギャラリーが専属でお探しする作品です(ご相談無料)。
この記事でわかること
- 『ロルカの詩I』の基本情報(シルクスクリーン・限定75部・サイン有り・縦63cm×横63cm)
- 画面を走る金色の文字が、ロルカ『カンテ・ホンドの詩』所収「アンパロ」の二つの連であること
- 詩の最後の一行「麻布に文字を刺繍しながら」が、そのまま作品の構造になっていること
- シルクスクリーンの絹の網と、詩の中の刺繍の麻布が、同じ仕組みの道具であること
- この絵でいちばん難しいのが、中央の庭ではなく髪の毛ほどの金の文字だという理由
- 画面左の余白に書かれた地名から、中央の窓がグラナダの実在の庭だと分かること
- この作品に合う額装3パターンと、飾ったときの空間の変化

① 本日のご紹介作品
本日ご紹介するのは、トレンツ・リャド氏の『ロルカの詩I』という作品です。
画面のほとんどが、深い緑で覆われています。
その緑の上に、金色の文字が流れるように走っていて、中央に小さな四角い窓がひとつ開いている。
窓の奥には、陽の当たる水辺の庭があります。
緑の布に、金の糸。
初めてこの絵を見たとき、私にはそう見えました。
絵というより、刺繍されたタペストリーが壁に掛かっているように感じられたんです。
正直に言うと、その印象はしばらく頭から離れませんでした。
今日この『緑の布に、金の糸』という見方を持ち帰っていただけたら、暗い色の絵を選ぶときの基準がひとつ増えると思います。
そして、この作品には先にお伝えしておきたいご案内があります。
いまお手元にご用意できる在庫はなく、当ギャラリーが「あなたの専属」としてお探しする一枚です。
すぐのお届けはお約束できません。
見つかるまでに数ヶ月かかることも、もっと先になることもあります。
ただ、ご希望を先に伺っておけば、市場に現れた瞬間にまっ先にご連絡できます。
ご相談は無料です。
まずは、この布に何が縫い取られているのかを一緒に見ていきましょう。
② 王侯の顔を描いた手が、詩人の字を写した
トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó)は、1946年にスペインのバダローナに生まれた画家です。
絵を習い始めたのは9歳のとき、バルセロナのアカデミア・バリスでした。
その後バルセロナの美術学校に進み、最終学年では助教授に任じられています。
ただ、彼はその職を受けませんでした。
1968年、22歳で地中海のマヨルカ島へ渡ります。
以後、亡くなるまでこの島を離れませんでした。
1977年にはパルマに自分の学校を開き、素描と絵画を教えています。
画家としての彼を有名にしたのは、肖像画でした。
スペイン国王フアン・カルロス1世、俳優のモーリス・シュヴァリエ、モナコのカロリーヌ公女、そしてティッセン男爵。
ヨーロッパの顔を描く画家だったわけです。
同時に、地中海の光をとらえた風景画が国際的な評価を得ていきました。
・・・ただ、経歴で語れるのはここまでです。
ここからは、王侯の顔を描いていたその手が、なぜ詩人の筆跡を一字ずつ写し取ったのか、という話に入っていきます。
③ 数字で見る『ロルカの詩I』
まず、この作品の基本情報を整理します。
- 作家:トレンツ・リャド(J. Torrents Lladó/1946-1993)
- タイトル:ロルカの詩I
- 技法:シルクスクリーン
- エディション:限定75部
- サイン:サイン有り
- 画寸:縦63cm × 横63cm
世界に75部。
版画の限定数としては、かなり小さな数字です。
数百部という単位の作品が並ぶ中で、二桁の部数はそれだけで流通量が違ってきます。
コレクターとして正直に言えることがあるとすれば、二桁エディションは「探せば出てくる」という前提が通用しないんですね。
出てこない年のほうが、普通にあります。
・・・ただ、数字で語れるのはここまで。
ここからは、この緑の布に縫い取られた文字が何なのか、という話に迫っていきたいと思います。
④ 縫い取られていたのは、刺繍をする娘の詩だった
緑の面を走る金色の文字は、模様ではありません。
スペインの詩人、フェデリコ・ガルシア・ロルカの詩です。
詩集『カンテ・ホンドの詩』に収められた「アンパロ」という一篇から、二つの連が書き写されています。
画面のいちばん下には、F. G. Lorca という署名まで添えられています。
上に書かれているのは、この四行です。
Oyes los maravillosos surtidores de tu patio, y el débil trino amarillo del canario.
あなたは聴いている、中庭のみごとな噴水の音を。
そして、カナリアの弱々しい黄色いさえずりを。
下に書かれているのは、続くこの四行です。
Por la tarde ves temblar los cipreses con los pájaros, mientras bordas lentamente letras sobre el cañamazo.
午後、あなたは糸杉が鳥とともに揺れるのを見る。
ゆっくりと、麻布に文字を刺繍しながら。
最後の一行を、もう一度読んでみてください。
麻布に、文字を刺繍しながら。
ロルカが詩の終わりに置いたこの情景を、リャドは絵の構造そのものに移し替えたのだと感じられます。
深い緑の面は、壁ではなく布です。
その布の上を走る金色の文字は、インクであると同時に糸なのだと感じられます。
詩の中の娘が刺繍していた「布の上の文字」が、そのまま一枚の版画になっている。
そして、彼女が刺繍の手を止めて顔を上げたとき目に入る庭が、中央の小窓に開いているわけです。
この絵を飾った方から聞く話で私がいちばん好きなのは、朝いちばんに目に入るのは窓ではなく、金の文字のほうだ、というものです。
⑤ 絹の網と、麻の布は、同じものだった
さて、ここからは技法の話です。
シルクスクリーンという技法を、ご存じでしょうか。
絵の具を塗る技法ではありません。
絹の網を張って、インクを通したい部分だけ穴を開け、その穴から紙へインクを押し出す技法です。
ここで、さきほどの詩の最後の一行を思い出してください。
麻布に文字を刺繍する。
刺繍というのは、目の粗い布に、糸を通す仕事ですよね。
シルクスクリーンも、目の粗い布に、インクを通す仕事なんです。
どういうことか?というと、この作品は詩が描いている動作と、作品そのものが作られた動作が、同じなんですね。
布の目を通して、文字を一本ずつ置いていく。
詩の中の娘がやっていたことを、刷り師が版の上で繰り返している。
そのうえで、この絵は技術的にかなり意地の悪い構造をしています。
いちばん難しいのは、中央の明るい庭ではありません。
あの金色の手書き文字です。
これがどのくらい難しいか?というと、髪の毛ほどの細い線を、途中で一度も切らさずに引き続ける必要があるんです。
版の穴が細すぎると、インクが途中で詰まって線が切れます。
太すぎると、インクがにじんで文字が潰れます。
しかも手書きの筆跡ですから、線が一度切れれば、そこだけ字が壊れたとすぐに分かってしまう。
模様なら少しくらいズレても気づかれませんが、文字は読めるか読めないかで判定されます。
そのうえ、その細い線が乗る相手は、画面の大半を占める広い緑のベタ面です。
広い面は、刷りの力が少しでも変われば筋が残ります。
濁った布の上に、切れた糸。
そうなったら、この絵は成立しません。
版画は、原画の安い代わりではありません。
作家が自分の表現を余すところなく届けるために選んだ、もうひとつの完成形です。
だからこそエディションナンバーは、基準に届いた刷りだけが世に出たという、作家自身の合格印になるんですね。
⑥ 緑は布の色、金は声の色
ここからは、色が心に何をしているのかの話です。
この絵でいちばん広い面積を持っているのは、言うまでもなく、あの深い緑です。
ただ、一色ではありません。
青に寄った緑、黄に寄った緑、ほとんど黒に沈んだ緑。
筆の跡がそのまま残っていて、布の織り目のように見えてきます。
緑という色は、人の目がいちばん細かく見分けられる色だと言われます。
だからこの画面は、遠目には一色なのに、近づくと急に情報量が増えるんですね。
そこへ、金色の文字が乗ります。
この金が、不思議と強くないんです。
主張しない。
詩の中の言葉を借りれば、弱々しい黄色、です。
ロルカはカナリアのさえずりを「弱々しい黄色いさえずり」と書きました。
画面の上でも、この黄色は小さな声のまま置かれています。
声として聞こえるけれど、こちらの耳を奪いにこない。
そういう音量で書かれています。
そして中央の窓です。
水面に、いくつもの輪が広がっているのが見えます。
噴水の水が落ちて、できた輪です。
詩のいちばん最初の一行が「あなたは聴いている、中庭のみごとな噴水の音を」でしたよね。
聴こえているはずの音が、絵の中では輪のかたちで見えている。
音を、目で見ていることになります。
朝、自然光が入ると、この絵はまず緑の織り目から目覚めます。
筆の跡が立ち上がって、金の文字が読めるようになる。
夜、照明を落とすと、緑が壁と溶け合って沈み、金の文字だけが残ります。
文字が浮いて見える夜は、絵がいちだんと布に近づきます。
そして近くで寄ると、また違う顔が出てきます。
遠目には平らに見えていた緑に、何層もの色が重なっていることに気づきます。
美術館や展示会では、そこまで顔を近づけることはできません。
⑦ グラナダの庭が、画面の左端に書いてある
もうひとつ、この絵を見るときの手がかりをお伝えします。
画面の左の余白に、縦向きの小さな文字で、場所の名が書き添えられています。
読み取れるのは、El Generalife。
そして、Granada。
グラナダのヘネラリフェ、アルハンブラ宮殿に隣り合う庭園です。
中央の小窓に描かれているのは、想像の庭ではなく、実在する場所だったわけですね。
ここで思い出していただきたいのが、ロルカという詩人のことです。
ロルカは、グラナダの人でした。
生まれたのもグラナダ県、生涯を閉じたのもグラナダの近郊です。
つまりリャドは、グラナダの詩人の言葉を、グラナダの庭の上に書いたことになります。
マヨルカ島に暮らした画家が、わざわざ海を渡って、その詩人の土地の庭を描いた。
言葉と場所を合わせにいった一枚だと感じられます。
そして、ヘネラリフェという庭園は、水の庭として知られています。
細長い水路に噴水が並び、絶えず水の音がしている。
詩が「中庭のみごとな噴水の音」と書き、画家がその音のする庭を選んだ。
偶然とは考えにくいと、私は見ています。
⑧ この絵には、どんな額が合う?
ここからは、この作品にどんな額装が合うのか、私のおすすめを3パターンご紹介させていただきます。
木洩れ日を招く『ナチュラル木額装』
まずは定番の、木目の額装です。
この作品に木を合わせる理由は、無難だからではありません。
深い緑と金の文字という組み合わせは、放っておくと少し厳かになりすぎるんです。
格式が出すぎると、毎日目にする絵としては少し疲れます。
そこに木目を回すと、画面の緑が「庭の緑」のほうへ寄ってきます。
石造りの宮殿ではなく、家の近くの木陰の緑に見えてくる。
布と木という組み合わせは、そもそも家の中にずっとあった取り合わせですから、壁になじむのも早いんですね。
中央の小窓に差している木洩れ日とも、素直に呼応します。
おすすめは、家族が集まるリビングです。
朝の光が入る時間は、木の額が壁と一続きになって、緑の織り目と金の文字が先に目を覚まします。
夕方、電球色の明かりをつけると、木の色が一段深くなって、画面全体が落ち着いた茶緑に寄っていきます。
私自身、自宅に絵を掛けてみて実感しているのは、届いた日に一度、思いきり近くで見ておくと、そのあとの眺め方が変わるということなんです。
遠目には一色に見えていた面が、近づくと何層もの色でできていると分かる。
それを知ってから壁に戻すと、毎朝その前を通るたびに、目が勝手に確かめに行くようになります。
家族が「今日はよく読めるね」と文字の話をし始めたら、その額装は成功だと思っています。

布を広げる『フォレストグリーン額装』
次は変化球です。
緑の作品に、なんでまた緑の額?と思われるかもしれませんが、これには理由があります。
この絵の緑を、額のところで切らずに、そのまま外へ広げてしまう案です。
木目の額が「絵を壁に置く」設計だとすれば、こちらは「布を壁いっぱいに広げる」設計になります。
額と作品の境目が曖昧になるので、壁に掛かっているのは額装された絵ではなく、一枚の織物に見えてきます。
そうなると、金の文字はいよいよ刺繍の糸に見えてきますし、中央の窓は布に開いた覗き穴のように感じられます。
緑同士がぶつからないのか、という心配はもっともですが、作品の緑が青寄りで、額を深い森の緑にすると、濃さの段差で輪郭はきちんと立ちます。
おすすめは、書斎や、少し落ち着いた応接室です。
昼間は、額と作品がひと続きの深い面として静かに収まっています。
夜、スポットライトを一灯だけ当てると、光の届いた窓の中だけが明るく残って、周りの緑は闇に溶けます。
お客様をお通ししたとき、たいていの方はまず黙って、それから「これ、何か書いてありますね」と一歩近づいてこられます。
説明を始める前に、相手のほうから距離を詰めてくれる絵は、そう多くありません。
そこで「スペインの詩人の詩なんです」と答えられると、会話はそのまま一段深いところへ進んでいきます。

糸に灯をともす『ブロンズ額装』
3案目は、画面の中から色を借りてくる方法です。
この絵で唯一、光を持っている色は金の文字です。
その色を額に拾わせると、文字の輝きが外側でもう一度反響して、画面全体がわずかに暖まって見えてきます。
ここで大事なのは、ぎらついた金ではなく、沈んだ銅色を選ぶことなんですね。
新しい金を使うと、額のほうが文字より明るくなってしまいます。
そうなると、せっかくの「弱々しい黄色」が額に負けます。
ブロンズは、金より一段暗く、緑とも相性のいい色です。
緑青という言葉があるくらいで、銅と緑はもともと同じ場所に生まれる色ですから、画面の緑とも喧嘩しません。
おすすめは、カフェや、小さなお店の壁です。
昼は、窓からの自然光で額の銅色がほとんど目立たず、作品の緑だけが静かに見えています。
夕方、店内の照明が入ると、額の縁がすっと浮かび上がって、同時に画面の金の文字も起きてきます。
一日の終わりに、絵のほうから灯がともるような額装です。
カウンターに座ったお客様が、帰り際にふと振り返って、文字を読もうとして立ち止まる。
そういう置き方に向いている一枚だと感じられます。

⑨ まとめ
深い緑の布、その上を走る金の糸のような文字、そして中央にひとつだけ開いた、水音のする庭への窓。
麻布に文字を刺繍する、とロルカが書いた一行を、画家が絵の構造そのものに移し替えた一枚です。
朝は織り目の絵、夜は文字の絵。
部屋の明るさによって、同じ一枚が布にも絵にも見えてきます。
それは、買った人だけが知る顔です。
この『ロルカの詩I』は、いまはどこかで、次の持ち主を静かに待っている一枚です。
名品は、ある日ふいに、たいてい一度きり市場に現れます。
だからこそ、先に「私はこの絵を待っています」と教えておいていただくことで、当ギャラリーはその瞬間にまっ先にご連絡できます。
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画面に書かれている文字は何ですか?
スペインの詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカの詩です。詩集『カンテ・ホンドの詩』に収められた「アンパロ」という一篇から二つの連が、画面の上下に手書きで書き写されています。画面下部には F. G. Lorca という署名も添えられています。最後の一行「麻布に文字を刺繍しながら」が、深い緑の面を布に、金色の文字を糸に見立てたこの作品の構造そのものになっています。
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